あのじ9

「体温の狂気」

78

 ・・・・長い長い話を終えて、シンジは、顔に集まった熱を吐き出すように、
大きく一つ、ため息をついた。
 身動きするのも忘れて、シンジの話に聞き入っていたミサトは、我に返って、
身体をほぐすように軽く姿勢を変える。身体を支える姿勢でベットについていた
手が、少ししびれている。すでに空になっていたビールの缶を握っていた右手が
こわばっているのに気付いて、手のひらを軽く開閉しながら、ベットから立ち上
がって、別のビールを、小型冷蔵庫の中から引き出した。
(あ・・・)
 立ち上がった瞬間、下着にわずかな冷たさを感じて、どきっとするミサト。
シンジの告白で、知らず知らずに、自分の「女性」も興奮していたらしい。
(シンちゃん、まさか、気付いてないわよね・・・)
 こっそりシンジを盗み見るが、シンジ少年は、視線を床に落としたまま、静か
に息をととのえている。
 痛みをこらえるような表情と、酔いと、告白の恥ずかしさで上気した肌の色に、
もう一度少しだけ鼓動を早くして、シンジのそばに、ゆっくりと座り直すミサト。
まず、シンジの分のプルを引いて、少年に差し出す。
 一瞬迷ったシンジだが、少し考えたあと、小さくお礼をつぶやいて、空の缶を
渡して、新しいビールを受け取った。
 さわやかに苦い、冷たい液体を、喉の奥に一口放り込んで、炭酸とアルコールの
刺激に少し咳き込むと、シンジは、ゆっくりとかみしめるように、「告白」を再開する。


79

 ミサトは、最初は、ひと一人分座るスペースていどの間を開けて座っていたのだが、
少しずつ、少しずつ、シンジに近づいて、今は、肩が触れあう程の距離に近づいていた。
むき出しのミサトの腕が、これも、むき出しのシンジの肩や腕に、時折、触れる。
シンジは、告白に夢中で気付いていない様子だったが、ミサトは、その感触が思いも
よらないほど心地よくて、距離を再度開けられなかった。

 保護者である、自分に許された距離。
 年上の上司にぎりぎり許された役目。
 年長の友人として、許容された接触。

 ミサトは、自分の卑怯さを自覚しながらも、シンジに、また、もう少しだけ、接近した。


「・・・アスカ、起きて。起きて・・・」
 ゆっくりと自分を揺さぶる感触と、低く抑えた声が、夢の名残を追い払って、
アスカは、名残惜しげに瞼を押し開けた。
 ここしばらく、ずっと体験したこともないような、深い深い眠りだったらしい。
 5分程の、短い夢。
 内容はほとんど覚えていないが、暖かくて、優しい感触の情景。
 そして、熟睡の後特有の、急速にはっきりしていく知覚と意識。
 ゆうべ、無理をさせすぎた身体の各所は少し、筋肉痛こそあるが、身体全体に、
久しぶりに活力があふれている感じだ。
 そう、その原因は・・・
 枕に頭をうめたまま、視線をゆっくりと彷徨わせると、こまった表情の、黒髪の
少年の顔が、薄闇にぼんやりと浮かび上がった。
「シンジ・・・」

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 そう、たっぷりと食べた、これ以上ないような贅沢な食事も、こちらも久しぶりに
満喫した熟睡も、彼がその原因だった。
 時計は、AM04:32を知らせている。睡眠時間の割に、身体が満足しきっているのは、
それだけ睡眠が深かったからだろうか。
 太陽は、もう、登りかけているのか、開け放った窓の奥は、黒から深い藍色に、
緩やかに色を変え始めている。
「起こしちゃって、ごめん・・・でも、ミサトさんが帰ってくる前に・・・」
 アスカの唇に、かすかな嘲笑が浮かぶ。
(ふん、こいつ、まだ、ミサトには隠しておきたいんだ。)
(隠したって、アタシと何度もヤリまくった事実は変わらないのに・・・)
(でも、いい。今のアタシは、とっても機嫌が良いんだもの。アンタの、その
ちょっとした希望ぐらい、許してやるわよ。)
(それに、アタシに黙って、隣から抜け出したりしなかったし。)
 もし、目を覚ましたら、アタシの隣にシンジがいなくて、もう、学校に
出かけてたりしたら・・・・
 アスカは、がらんとした部屋の中で、一人目をさます自分を想像して、眉を
曇らせた。半分は、その情景に嫌悪を感じた自分の自分勝手さに向けられたものだったが。


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「・・・後かたづけ、しなくちゃいけないから・・・」
「・・・ふん。しかたないわね。」
「・・・・」
「・・・・なによ?」
 シンジは、困った表情を、ますます困らせて、もじもじとつぶやいた。
「出られないんだけど・・・」
「?」
 アスカは、そこで、じぶんの両手がしっかりシンジの腕を抱き寄せて、足も、
アサガオの蔓のように、シンジにからみついているのに気がついた。
 一瞬、気恥ずかしさに顔を真っ赤にしかけたが、鼻を鳴らしてシンジをにらみつけた。
「ふーん、アタシが寝てるのを良いことに、こんなことしてたんだ・・・」
「ぼ、僕じゃないよ!アスカが抱きついてきたんじゃないか!」
「どうだか・・・誰かが見たら、どっちの言うことを信じるかしら?」
「も、もう出るからね!」
 それでも、シンジは、アスカの手をふりほどいたりはせず、ゆっくりとどかしてから、
ベットから身を起こした。
 怒ったような表情で、天井を向いたまま、からかうようなアスカの視線をさけるように、
早口でつぶやく。
「じ、じゃあ、後かたづけするから、アスカは、もう少し休んでて。」
「ん・・・」
「洗濯物とか、ゴミとかあったら、出しておいて。」
「わかった。」

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 アスカの返事を確認して、いそいで出て行くシンジの背中に、アスカの声がかかった。
「シンジ!」
 びくっとして振り向くシンジに、薄く微笑む。
「朝ごはん。簡単なものでいいから、用意しておいてよ。」
 一瞬の間をおいて、ぱぁっと、眩しいような笑顔を返すシンジ。
「うん!すぐ、準備するから!!」
 満足そうにその笑顔を見つめると、アスカは、さらに注文した。
「晩ごはんも、つくりなさいよ。店屋物なんて許さないから。」
「うん!」
 シンジが、もう一度、笑顔を振りまいて、部屋を出て行くと、アスカは、満足そうに
鼻を鳴らして、枕に顔を埋めた。
 自分の髪からうつった、シャンプーの匂いに混じって、ほんのかすかに鼻に触れるのは、
シンジの髪の匂い・・・・日なたとキッチンの匂い・・・・だった。
 自分のためにつくられている料理の音を聞きながら、夕べとはまた別の意味で、とても
贅沢な気持ちで、アスカは、目を閉じた。

「ええ、はい・・・そうです、ちょっと風邪気味で・・・はい、学校には、
もう連絡しました。ミサトさんも、無理しないでくださいね。」
 沈黙と薄闇の中で身じろぎもしない時間をたっぷり過ごしてきたアスカの五感は、
野生の動物並みに鋭くなっていた。

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 シンジの電話の声は、いくつかのドアと壁の向こうでも、しっかり聞こえていた。
(学校、休むんだ・・・ちょっと、無理させすぎたかな・・・)
 昨晩から夕べにかけての「シンジの負担」を思い出して、眉をひそめるアスカ。
同時に、その光景が、また甘く下腹をうずかせることを実感する。
(食べて、寝て、ヤッて・・・まるで動物並みね、ホント・・・)
 軽く自嘲しながらも、身体を押し流すような欲望に、また、身体が熱くなる。
 自分の濡れそぼった股間に、顔を狂ったように押しつけるシンジ。
 自分の下で快感にもだえていたその顔を、上から見下ろして犯し抜いた感触。
「いいわよ、動物で・・・アイツが、アタシのものになるなら・・・」
 張りを取り戻しかけた唇を、いらだたしげに舐めながら、くすくすと笑った。

「はい・・・簡単でごめんね。」
「ん・・・」
 十数分後、シンジ少年は、湯気の立つトレイを手に、アスカの部屋に戻っていた。
アスカは、その姿を見て、タオルケットを払うと、ベットから身を起こした。
 ベーコンエッグにバターロール、ハムとレタスとトマトのサラダ、蜂蜜を垂らして
温めたミルクに、大きなマグカップ一杯のコーンスープ。短時間で準備したわりに、
充実した朝食と言って良いだろう。
 昨日も使った折りたたみテーブルが準備され、今度は最初から、二人分の料理が
並べられる。そして、静かな朝食が始められた。

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 会話はほとんどなかったが、アスカは昨日同様、思う存分に「自分のための食事」
を楽しみ、シンジは、自分も食事をとりながら、幸福そうに、アスカの食事ぶりを
見つめていた。
「ごちそうさま。」
 しあわせそうなため息とともに、アスカが宣言すると、シンジが、今日は、
すこし熱めの玄米茶をいれてくれる。湯飲みを受け取ったアスカは、嬉しそうに
片づけをするシンジを見上げて、しずかにお茶をすすった。
 シンジは、食器の片づけが終わると、自分の部屋に戻るのかと思いきや、
いつものタンクトップに大きめのショートパンツという、動きやすい服装になって、
アスカの部屋に戻ってきた。
「・・・アンタ、今日は休むんじゃなかったの?」
 アスカの不審そうな声に、シンジも軽く頭をかしげてみせる。
「・・・部屋の片づけ、手伝おうと思ったんだけど・・・」
(そういえば、昨日、寝る前に約束したっけ。)
「ミサトさん、今日は夕方に帰ってくるって言ってたから、昼間しか、時間がないし。
 ゴミから片づけるから、触られたくないものがあったら教えてね。」
 返事に迷っている間に、シンジ少年は、愛用の水色のエプロンを付けると、厚手の
ゴム手袋をはめて、ほうきとちりとり、いろいろな大きさのゴミ袋をてきぱきと準備し始めた。
 そして、嬉しそうに、部屋の掃除に取りかかるのだった。

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 アスカは、部屋の隅に座り込んで、シンジの奮闘を、ぼうっと眺めていた。
(こいつ、何で、こんなに、嬉しそうなんだろう・・・)
(そんなに、家事が好きなの?変なヤツ。)
(でも、悪くないわね。あんなに一生懸命になっちゃって。)
 シンジは、今まで、自分がアスカに対して何も出来なかった。
 自暴自棄になり、自分以外の世界に背を向けたアスカに、何も出来ない自分を、
絞め殺したくなるような無力感があった。
 そして今、自分の出来ることで、少しでも、アスカの環境に貢献できることが、
シンジには嬉しくてしょうがなかったらしい。
 そして、アスカもまた、自分自身を絞め殺したい程の無力感にさいなまれ、
その上で他者に当たり散らす自分を、二重三重に嫌い、憎んでいたのだが、
シンジの「捨て身の努力」で、「好意」を多少ゆがんだ形でも、受け取れるようになった。
 切望した日常。
 失っていた毎日。
「家事」をはさんで、不器用な少年と少女は、それぞれに、素朴な幸福を
味わっていたのである。


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 まず、窓と、カーテンが一杯に開け放たれた。ドアも開け放たれ、
リビングの窓も全開になって、外気と光が、一気に流れ込んできた。
 アスカは、久しぶりの直射日光に目眩がしたが、その中で嬉しそうに働く
シンジをみると、何も言えないまま、無言で手で日差しを遮っていた。
 部屋に散らばっていたゴミは、分別されて、ゴミ袋に収まった。
 割れ砕けた姿見の鏡は片づけられ、大きな破片は新聞紙で何重にもくるまれて
布テープで止められ、小さな破片は入念に掃除機で吸われて、危険ゴミへ。
 棚は元あった場所に設置し直され、蔵書は、系統別に再整頓されて納められた。
 衣装棚も立て直されて、床に散乱していた衣類も、アスカの指示で、あるべき場所に
収納されていった。
 部屋の片隅に積まれていた使用済みの衣類も、種類別に、何度かに分けられて、
全て洗濯機にかけられた。幸い、今日は天候も良かったため、片端から、ベランダの
物干し竿に、洗濯物がひるがえった。直射日光を嫌う衣類は、リビングの、風のよく
とおる場所に吊された。
 アスカが料理をぶちまけてシミになってしまっていた壁は、高圧蒸気クリーナーで
(深夜番組の通販でどうしても欲しくなって、パイロット給金で購入したらしい)
綺麗に洗浄され、同じく、いろいろなもので汚れていたカーテンも新品のものに
取り替えられ、取り外したカーテンは、タオルケットやシーツ、枕カバーとともに、
バスルームで大きなバケツで、つけ置き漂白される。

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 ベッドの敷き布団(マットレスではなくて、シンジから強奪した布団だった)は
シーツをはがされて、枕と一緒にベランダの日光の中に干され、ちゃんと端から端
まで布団叩きで叩かれた。
 昼食と休憩をはさんで、シンジの奮闘は続き、3時を回る頃には、アスカの部屋は、
文句の付けようもないほど、あらゆるところが整えられた姿になっていた。
 最初は見るともなく、ついで、感嘆を込めて、最後には呆れかえって眺めていた
アスカが、ようやく声を出した。
「・・・・アンタ、本当に・・・・馬鹿なんだから・・・」
(本職のハウスキーパーでも、十分喰っていけるわよ、こいつ・・・)
 自分が閉じこもる以前でも、ここまで綺麗になったことはなかった。おそらく、
この部屋が完成して以来の整頓ぶりではないだろうか?
 怒りにまかせて引きちぎられたクッションを器用に縫い合わせて、最後の
玉留めを終えて糸を切ったシンジが、視線で疑問符を浮かべるのをみて、もう一度
ため息をつく。
 クッションを置いたシンジが、針を針枕に差し込んで針箱をしまい、ベランダに行って、
敷き布団を持ってくる。
 今日の大掃除も、これで完了と言うことだろう。
 その背中を見た瞬間、アスカの胸の奥から、また、ごぼっ、と忘れていた溶岩が
 にじみ出てきた。
 それまで、ただ、穏やかな幸福をかみしめることに夢中で、ぼんやりとたゆたっていた
視線が、次第に温度を下げ、それにつれて鋭さを増していった。


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 たっぷり日光を吸い込んで、軽く、柔らかくなった敷き布団に、新品のシーツを掛けて、
同じく、日光を一杯に吸い込んだ枕に枕カバーを掛けて、最後に、新しいタオルケットを
ふわりとかぶせる。
「はい、出来たよ、アス・・・」
 自分の仕事ぶりに満足して、振り向いたシンジ少年の笑顔が、凍り付いた。
 真正面から、アスカの視線を受けただけである。べつに、アスカが服を脱ぎ捨てていた
わけでも、背後から押し倒されたわけでもない。
 アスカは、にらみつけるでもなく、威圧するでもなく、唇に薄い笑いを浮かべたまま、
やや顔を伏せ気味にした姿勢で、じっと、シンジを見つめていただけ。
 ただ、それだけで、シンジは、動けなくなっていた。
 一度しか見たことがない、そして、たった一度だけで忘れることが出来るはずもない・・・
シンジを押し倒し、シンジに哀願させて、勝ち誇って犯し抜いたときの、淫靡な笑顔。
 無意識に、シンジは、後退しようとして、いま、自分が整えたばかりのベットに、腰を
ぶつける。ドアを背にしたアスカは、シンジの表情の変化に気付かないはずがないのだが、
そのおびえを楽しむように、ただ、そこで微笑んでいた。
「・・・どうかした?馬鹿シンジ・・・」
 ことさらにゆっくりと、ぎりぎり聞こえる程度の声で、ささやくアスカ。
 シンジは、少しずつ激しくなる動悸を抑えるように、音を殺して深呼吸する。
 アスカの眼の奥で揺らめく、冷たい情欲の光に、半ば金縛りにされながら、シンジは、
自分の考えの甘さを、全身で後悔していた。


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 自分の「告白」のあと・・・・
 自分を、執拗に、何度もいたぶった、凄絶な美しさをむき出しにしたアスカ。
 思い出すたび、羞恥で記憶を引き裂きたくなるような懇願を、蒼い瞳を暗く輝かせて喜んだアスカ。
 恐怖、快感、衝撃、愛情・・・どの分野かは不明でも、一生忘れられないような、
そんな経験だったが、それに続く、バスルームでの時間はともかく(それでも、恐怖は
全くと言っていいほど、消えていたし)そのあとの、食事は・・・・
 恐怖どころか、泣きじゃくっている童女に、しゃがんで視線を合わせるときのような、
無条件の愛おしさしか感じなかった。

 アスカは、もしかして、昔の自分を、取り戻せるかもしれない。
 少なくとも、そのきっかけは、手に入れられたのかもしれない!
 単純に、そう思って、嬉しくて仕方なかった自分が、とんでもない馬鹿に思えた。
 自分だって、知っていたはずだ。
(あれだけで、元通りになれるほど、アスカの絶望は浅くないって・・・)
(僕程度じゃ、「アスカの力になりたい」なんて考えること自体、身の程知らずだって・・・)
(知ってたはずなのに・・・それでも・・・)
 アスカが、かつての自分を、取り戻してくれる可能性を、未練がましく抱きしめていた。
 絶望の色が混ざり始めたシンジ視線の先で、アスカの蒼い眼が、もう一度、鈍い穏やかさで輝いた。

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 アスカは、その場を動いていないのに、だんだんと近づいてくるような圧迫感を感じて、
シンジは、自分の意思を奮い起こして、ようやく、声を絞り出した。
「・・・あ・・・アスカ・・・」
 次の言葉が出てこなくて、もどかしげに唾を飲み込むシンジ。アスカは、
そのぞっとするような、甘やかな微笑のままで、少しだけ頭を傾げる。
 その仕草に、また冷たいものを感じながら、何度かの失敗の後、ようやく、言葉を
続けるシンジ。
「・・・アスカ・・・もう、もう・・・やめようよ・・・」
 アスカの目に、残忍な光が宿り、内臓に刃物を突き込むような、痛烈な嘲りが飛ぶ。
 そう予測して身を固くしていたシンジだが、アスカは、その、穏やかとも言えそうな
微笑を消すこともなく、どこかきょとんとした仕草まで交えて、つぶやく。
「・・・やめる?何を?」
「なにを・・・って・・・」
 わからないはずがない。わからないはずはないし、こちらの言いたいことを見抜いて
いないはずもない。シンジの首筋に、冷たい汗の感触が広がる。
「変な、シンジ。」
 そして、そのまま、シンジを見つめながら、同時に、別の情景を見ているような視線で、
ことさらにゆっくりと、一歩を踏み出した。
「・・・何を、やめるの?何を、やめて欲しいの?」


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 シンジは、目の端に涙さえ浮かべて、後ずさった。頑丈なベットに抑えられ、実際は
まったく距離の移動は出来なかったが、その反応が、アスカにわからないはずはない。
それでも、アスカは、くすくすと声を出さずに笑いさえして、シンジに近づく。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 シンジの喉が震える。「来るな!」「来ないで!」という、喉元まで駆け上がってきた
拒絶の言葉を、命がけの努力で押しとどめ、飲み下した。
 もう、アスカとの対話を、自分から投げ出したくない。
 もう、二度と、アスカの孤独から、逃げ出したくない。
 シンジの、孤独な内面の闘いを、やはり、察していたのか・・・アスカは、感謝するように、
ごくかすかに頷いてみせる。
 そして、最後の距離を、アスカが詰めた。 
 シンジの、見開かれた眼を閉じるように、栗色の髪が視線を柔らかく覆う。
 柔らかい石鹸の芳香が、硬直したシンジの嗅覚一杯に広がり、その身体は、少しだけ、
ひやっとする感触を伝えてきた。自分の体温が高すぎるのか、アスカの手が冷たいのか・・・
 アスカが、高価な細工物を手で持ち上げるように、シンジの身体を、柔らかく抱きしめていた。
まだ、アスカ本人は納得しているわけではないにせよ、久しぶりの運動に、たっぷりの食事と
睡眠で、つやを取り戻した、しっとりとした腕の感触。
 耳元で、かすれた声で、そっと、アスカがささやく。
「・・・言ったでしょ、馬鹿シンジ。
 アタシは、狂ってるの。
 アンタの、体温に・・・」
 そのまま、シンジを、抱きしめ続けた。

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 シンジは、言葉を失って、ただ、立ちすくんでいた。全身は、震えている。
(僕は、変だ・・・こんなに怖いのに、こんなに逃げたいのに・・・
 なんで、嬉しいんだろう・・・)
 アスカの行動が、想像もしなかった優しさを持っていた。だが、それは、
殴りつけられるより、ずっとずっと、怖かった。
 もう一度、アスカが、ささやく。
「・・・感謝の言葉なんて、言わないわよ・・・」
 どきりとして、シンジは身体を震わせる。
 鈍感なはずのシンジは、そこで、恐ろしく正確に理解した。
 言葉に出さなければわからないこともある。
 言葉に出したくないこともある。
 アスカのささやきは、「言葉にしない、言葉以外で」という宣言のようなもの。
 そこまで思い当たった時に、シンジの身体に、穏やかに体重がかけられ、
シンジは、ゆっくりとベッドに押し倒されていた。


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 優しい、日なたの匂い。ふわっとした感触。清潔な布の肌触り。
 アタシは、うっとりと一杯に息を吸い込んだ。
 そういえば、この、アイツが整えてくれたベットは、匂いも感触も、アイツを連想させる。
シンジは、馬鹿だから。本当に馬鹿だから、多分、わかってくれた。
 それでも、不安になって・・・いや、狂ったアタシに、不安なんてない。ただ、アイツに
聞かせたいだけ。そう、アタシの自己満足のためだけに、震えるアイツに、ささやきかける。

「・・・アンタが、悪いのよ、馬鹿シンジ。」
 本当は、悪いのは、全部、アタシ。

「・・・アンタが、もっと馬鹿だったら。もっと嫌だったら、こんなにしなくて良かったのに。」
 アタシなんかに、こんなに優しくしたから。

「怖くて、逃げたくて、どうしようもないくせに。」
 逃がさない。アンタの全部を。

「アンタが、あんなにイイって知らなかったら、狂わずに済んだのに・・・」
 狂えて、良かった。もっと、もっと、アタシは、アンタに狂っていく。

 そして、アタシは、シンジの、さらさらした髪を、手にとって、ゆっくりとかき分ける。
 シンジは、怖がることも忘れたような眼で、アタシを見上げていた。

94

 その視線で、昨日からの、こいつの行動が、フラッシュバックする。
 昨晩の、捨て身の「好意」。恐怖に泣きながら、アタシに向き合ったこと。
 レイプされながら、アタシを欲しがってくれたこと。犯した相手を、優しく洗ってくれたこと。
 思わず涙が出るぐらい、美味しい、アタシのためだけの料理。
 本当に、嬉しそうに、綺麗に掃除してくれた部屋。

 数えだしたら、きりがないけど・・・ううん、狂ったアタシが取る行動は、一つだけ。
 感謝なんてしない。狂ったアタシは感謝なんてしない。
 アタシは、アタシの欲望をぶつけるだけ。単なる肉欲。感謝なんかじゃない。
「・・・覚悟は、良いわね?」
 アタシの、欲望にうわずった宣言に、シンジは、もう、おびえてなかった。
 ほんの少しだけ、笑って・・・眼を閉じた。
 まるで、両手をあげて、抱き上げられるのを待つ、子供みたいに。
 それを見た瞬間、アタシの意識は、そこで、白くはじけ飛んでゆく。

 力任せにタンクトップをはぎ取って、アイツの首筋に、強く歯を立てる。
(誰にも、渡すもんか・・・!)
(こいつは、アタシだけのもの・・・!)
 アイツの掃除してくれた部屋で。アイツの整えてくれたばかりのベットで。
 アタシは、アイツを汚し尽くていく。
 心地良い、狂気に全身を浸しながら。


95

 「告白」が終わったことに、しばらくの間、ミサトは、気付かなかった。
我に返った瞬間、自分の手が、飲み終えたビールの空き缶を、ほぼ完全に
握りつぶしていることに気付く。よほど力を込めていたのか、開こうとすると、
指の関節が、ぎしっと軋んだ。軽い音を立てて床に落ちた、変形した空き缶を、
機械的な動作で拾い上げ、ごみ箱に投げ込んだ。
 シンジは、上気した顔で、何度も、熱い息をついている。数回、呼吸を整えると、
静かなだけに、煮詰まったコーヒーのような苦さを感じさせる口調で、続けた。
「・・・・長くなって、ごめんなさい。
 大体は、こんな感じだと思います。
 あとは・・・」

 要点のみを、淡々とシンジの声が紡いでいく。

 アスカは、自我崩壊から、完全ではないにせよ、ある程度は回復した。
 毎食の、栄養たっぷりの食事と、それに続く、十分な睡眠。
 そして、一日に最低一度・・・多い日は、5回以上の、「運動。」
 シンジを「自分のもの」にしたことで、破局へと向かっていた心は、
思いもよらない満足を得たらしい。それは、危うい均衡の上にあると言うことでもあるのだろうが・・
 ともあれ、アスカの健康状態は、劇的に好転していた。一時は、三分の二にまで
減ってしまっていた体重も、ゆっくりと回復しつつある。


96

 ただ、彼女の意識は、完全に「シンジ」に向いている。
 建て替えたかのように綺麗になったとはいえ、やはり、ほとんど自分の部屋からは、
でてこなかった。例外は、トイレと、バスルーム程度。
 そして、シンジが帰宅してから、ミサトが戻ってくるまでの時間と、
ミサトが眠ってしまってからの時間は、アスカは、毎日、シンジを「犯し」つづけていた。

「・・・・昨日の、夜も・・・」
 苦しげなシンジの声に、ミサトは、そっとその肩を叩いて、シンジの言葉を制止する。
「そこからは良いわ、シンジくん・・・私、偶然だけど、聞いちゃったの・・・」
「あ・・・そうですか・・・」
 ほっとしたように、視線をあげてミサトを見たシンジは、不意にばっと身を起こして、
両手で、ミサトの肩をつかんだ。
「み、ミサトさん!そうだ、あの、そのことなんです!」
 シンジの両手には、思った以上の力がこもっていた。ミサトは、痛そうにちょっと顔を
しかめたが、シンジの必死な様子に、そのまま、先を促した。
「そのこと、って?」
「あの、リツコさんに、相談しないと・・・今からでも、急がないと・・・!」
「落ち着いて。リツコって、何を相談するの?」

97
 シンジは、自分を落ち着かせるように呼吸を整えると、視線を落とす。
「僕・・・僕、あの・・・昨日、アスカと・・・アスカの中で・・・」
 ミサトは、納得した。シンジは、アスカに犯されたとき、膣内射精を強制された。
中学生の少年には、どれだけのショックだったか、想像に難くない。
 同時に、自分でも想像していなかった感情が、ミサトの行動を、僅かに狂わせた。
(アスカ・・・あんなに激しく、シンちゃんを抱いて・・・)
(あげくに、シンちゃんのを・・・無理矢理、ナカで・・・)
 それは、意識しない嫉妬と、少し屈折した羨望。
「ごめん、シンジくん、詳しく説明してくれないと、わかりづらいんだけど・・・」
 冷静な上司を装う声が、第三者のようにミサトには聞こえる。
 シンジは、また、顔にぼうっと顔を赤らめて、ミサトを見つめる。ふと、
自分がミサトのむき出しの肩を、力を込めて握りしめているのに気付いて、あわてて
手を引っ込めた。ミサトのなめらかな肩には、うっすらと手の跡がついている。
「ご、ごめんなさい!痛かったですよね!?」
「いいわ、それより、説明が先よ。」
 自分が、少年に、嫌らしい言葉を言わせるのが目的だと知ったら、どう思うだろう・・・
冷静な上司の表情の奥で、自分の嫌らしい部分が、嘲笑している。
「あの、あの・・・昨日、アスカと、せ・・・セックス、したときに・・・
 僕、我慢できなくて、アスカの、中に入れたまま・・・行っちゃって・・・」
 必死に、つっかえながら説明するシンジに、暗い喜びを覚えるミサト。
「あの!ネットで調べたら、翌日でも、効果のある、緊急時用のやつがあるって!
 だから、リツコさんに・・・」

98

 健気にも、「犯された」とも、「無理矢理膣内で射精させられた」とも言わず、
また、本気でどうしていいかわからないらしいシンジをみていると、ミサトは、
もう、自分の知っていることを伝えられずにはいられなかった。
「そう・・・心配だったでしょ、シンジくん。でも、大丈夫。」
「そんな、大丈夫、って・・・」
 ミサトは、安心させるように、ちょっと笑って見せた。
「シンジ君は知らないかもしれないけど、今、アスカは、妊娠できる体調じゃないわ。」
「え・・・」
「女ってね、精神的な負担が大きかったり、過労とか、不規則な生活ばっかりしてるとね、
 生理が止まっちゃうときもあるのよ。」
「そ、そうなんですか?」
「アスカ、あれだけひどい状態で・・・絶食にも近かったし。多分間違いなく、妊娠できる
状態じゃないわ。」
「・・・そうなんですか・・・よかった・・・・」
 安堵のあまりか、そこにへたり込むシンジ。その姿を見て、ミサトも少し、気持ちが
軽くなって、自分の旧友への軽口を叩く。
「それに、いくら必要だからって、リツコに頼むのは危険よ、シンちゃん。大体、リツコの奴、
専攻がなにかわかんないのも怪しいし。いくら非常時たって、アイツに薬を頼むのは・・・
 ・・・シンちゃん?」
 へたり込んだままのシンジを見下ろして、軽口を中断させるミサト。
 シンジは、声を出さずに、静かに嗚咽していた。
「・・・シンちゃん?」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」
 シンジは、そのまま、涙をぬぐうこともなく、謝罪の言葉をつぶやき続けていた。

99
 ミサトは、シンジの身体を抱え込むようにして、ベットに腰掛けさせると、あやすように
その細い肩に手を回して、シンジの横顔をのぞき込んだ。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「シンちゃん、何のことで、謝ってるの?良かったら、教えて・・・」
 シンジは、ようやく、繰り返す謝罪の言葉を止めて、濡れた瞳でミサトを見つめた。
「・・・僕は・・・」
 自分の膝に視線を落として、力なくつぶやく。
「僕は、卑怯で、臆病なんです・・・」
「妊娠しないってわかっただけで、こんなに安心して・・・」
「アスカも、みんなも、こんなに大変なのに・・・」
 ミサトにきかせると言うよりは、独白に近い。ミサトは、口をはさまず、視線だけで
続きを促した。
「僕は・・・僕は、本当は・・・」

 ・・・・アスカに、自分のわがままを押しつけて、それを受け取って貰えて、本当に嬉しかった。
 そして、アスカに犯されて・・・拒否も出来たのに、そうしなかった。
「犯された」ことで、自分の欲望じゃなく、アスカの欲望を満たしたと言い訳が出来る。
だけど、アスカにめちゃくちゃに犯されて、屈辱的に言葉を言わされて、それでも、
これ以上ないくらい、気持ちよかった・・・・

100

 ミサトは、本当は、自己否定の言葉は、嫌いだった。その人の弱さをむき出しにされることが
ではなく、自分の心の奥の自己否定を、嫌でも連想させるからだ。
 だが、ミサトは、シンジの、悲しい言葉の流れを、遮らなかった。シンジの言葉の続くまま、
黙って聞きながら、シンジの肩を抱き続けた。

 ・・・・自分が、アスカのためにしていることは、全部、アスカにすがっているだけ。
 自分だけの世界に閉じこもっているなら、自分が入れれば、アスカは、自分だけを見てくれると
 思っていたのかもしれない。
 逃げたくない。でも、逃げたのとどこが違うのか、わからない・・・

「僕は・・・僕は!卑怯で・・・汚くて・・・臆病で・・・・」
「あんなにひどい状態のアスカの弱みに・・・つけ込んで・・・・」
「アスカからしてきたって、言い訳して・・・・」
「アスカから呼ばれるたびに、我慢できなくて・・・」
 言葉も流し尽くしたのか、シンジは、もう、嗚咽するだけになってしまってから、
ようやく、ミサトは、シンジに声をかけた。
 自己否定の言葉を吐く人間は、それを人に否定してもらいたがっている。
 ミサト自身は、そう思っているが、ミサトの口からは、自分の普段の考えとは
別の言葉が流れ出していた。
「振り返って、卑怯な自分、汚い自分を嫌だと思ううちは、まだ、本当に汚れてはいないわ。」
 思いの外、自分の声に力がこもっていたのか、シンジが、もう一度、ミサトの顔を見上げる。


101

「・・・ミサトさん?」
「シンちゃんが、卑怯じゃないなんて言わない。臆病じゃないとも言わないわ。
 ・・・でもね、私に言わせれば、まだまだ甘いわよ?」
 沈んだ空気には場違いなくらい、表情たっぷりに、ウィンクしてみせる。
「・・・わたしは・・・シンちゃんより、ずっと卑怯で、汚くて、臆病だわ。」
「そんな・・・」
「女で、大人で、軍人なんかやってると、なかなか、綺麗でなんていられないわよ?
 ・・・私は、もう、そんな自分を嫌悪するのも、ほとんど、やめちゃった。」
「・・・・・」

 そう、自分は、それを嫌悪するのもやめてしまった。
 シンジの独白を、うらやましく思えるほど・・・・

「自分の半分しか生きてない子供たちを、戦場に送り出して・・・」
「普通の日常を奪い取っておいて、がんばれ、だなんて。」
「アスカがああなっちゃったのも、シンちゃんが大変なのも・・・実は、ほとんど、私のせいだし。」
「それでも、シンちゃんを、手放さなかったしね。」

(あれ、ちょっと・・・おかしいわ・・・)
(わたし、シンちゃんを、元気づけるつもりで・・・)
(こんなことまで、いうつもりなんて・・・)

102

「そう・・・私は、シンちゃんより、ずっとずるくて、卑怯だわ・・・」
「そう、今も。」
 シンジは、熱い温度のこもり始めたミサトの言葉を否定するように、硬く目を閉じて、
言葉を吐き出した。
「・・・でも!でも!!いまだって・・・いまだって、ミサトさん、一生懸命、こんな話を
聴いてくれてたのに!
 ・・・アスカとのこと、思い出して、興奮して・・・・」
 シンジは、それほど考えずに、この言葉を吐いたのだろう。だが、これは、事態に、
致命的な一撃を加えた。
 ミサトの中で、なにかが泡だった。溶岩のような、豪雨のような・・・その何かは、
軍人として鍛えられていたはずのミサトの自制心を、いともたやすく溶かし、押し流した。
 弾丸は、シンジの両手の跡の残る自分の両肩。
 引き金は、まだ抱いたままの、シンジの肩。
 その感触は、かつて戦った使徒のように、知らずに、ミサトの内側まで浸食していた。
 ミサトも、理解した。
 これが、アスカが虜になった・・・・
 体温の狂気。
 理性が徐々に溶け出し、流されていく感触は、こらえがたいほど心地よかった。


 103

 年上。上司。保護者。観察者。友人。同居人。
 それら全部が、今の自分には意味を持たなくなっていく。
 この少年を、自分の思うままにしたい。
 まだ、一人の少女しか知らない、ほっそりとした身体を、この、自分の身体で、蹂躙してやりたい。
 快感にとろけた顔を見て、こらえても溢れてくる、そのあえぎ声をたっぷりと聞きたい。
 もし、それで、以前の関係に戻れなくても、嫌われても、そんなことはどうでもいい。
 シンちゃんの体温。手や、肩だけじゃ、足りない。
 もっと、もっとたくさん・・・

「まだ、甘いって、言ったでしょ、シンちゃん・・・・」
 今までとは違う、耳たぶに直接ささやきかける言葉に、びくっと身体を震わせるシンジ。
 そして、その言葉の内容は・・・
「あのね・・・私も、シンちゃんのお話で・・・もう、濡れちゃってるの、こんなに・・・」
 愕然として顔を上げるシンジに、ゆらっと笑いかけるミサト。
「今なら、今なら・・・アスカの気持ちも、よくわかるわ・・・我慢出来るはず、ないもの。」
 意識してのことではないだろう、反射的に身体を離そうとしたシンジを、一瞬の差で、
その豊かな胸に、柔らかく抱きかかえる。
「・・・はぁ・・・シンちゃんの・・・からだ・・・」
「み・・・ミサトさん!」
 なんとか、顔を、柔らかい巨大な球体から押し出して、必死にミサトの顔を見上げるシンジ。
その頬が、優しい手で覆われた。
 次の瞬間、ミサトの唇が、シンジの反論を、力ずくで中断させていた。

                                               続く




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第九部に続く

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