後日談

12
「あー・・・・めんどくさかったぁ・・・・」
 完全にだれきった呻きとともに、年寄りじみた動作で自分の肩を叩く葛城ミサト。
数分前まで、姿勢、視線はもとより、制服も、制帽までも一部の隙もなく整えていた
反動だろうか。
 書類上の処理だけで済むと思ったら、引き渡しの現場にまでつきあわされ、おまけに
今回の事件の処理の行く末まで、いけ好かない戦自のエージェントと話し合う羽目に
なってしまった。
 のろのろとした動作で、携帯電話の表示に目を走らせる。もう、日付は変更されて
しまった。さすがに、彼女の理解ある同居人、シンジも眠ってしまっただろう。
 良く気がつく彼のことだ、自分の分の食事ぐらいは、暖めて食べられるように取って
おいてくれているだろう。急いで帰って、晩酌としゃれこもう・・・・
 ささやかな贅沢を心の糧に、一度、自分の執務室まで戻るミサト。一応、受け取った
書類ぐらいは保管庫に入れておきたい。
(リツコの所に行くのは、朝になってからね・・・問題があったら、言ってくるでしょ・・・)
角を曲がって、自分の執務室前まできたとき、ミサトは少なからず驚いた。
「シンちゃん!?」
「あ・・・ミサトさん。遅くまで、お疲れさまです・・・」
 学生服姿の、細身の少年は、それまで座っていたベンチから立ち上がった。
S-DATと文庫本が何冊か、鞄の側に置いてある。
「どしたの、シンちゃん!?こんな時間まで・・・」
「あの、その・・・いったんは家に帰ったんですけど、急いで、相談したいことがあって」
 そこで、すこし言葉を濁した。ミサトは、ちょっと首をかしげる。視線を少し落として、
はっきり発言しないというこの姿勢は、以前は見慣れたものだったが、このごろは心を開
いてくれたのか、滅多に見なくなった。それだけ、喋りづらいことなのだろうか。


13
「えーと・・・それって、今日の・・・・あちゃ、もう昨日ね。拉致未遂のこと?」
「はい・・・」
 ふむ・・・と頬に手を添えてちょっと考える。「報告」は既に受けているし、第一
「事後処理」はたった今済ませてきたところだ。「相談」と言ったからには、上司と
部下ではなく、「友人」なり「家族」として、話があるということだろう。さらに、
「もう一人の同居人」には聞かせたくないような。
(まあ・・・「恋人」とか「愛人」としてだったりして・・・・えへへへ・・・
 さすがにそりゃないわね・・・・)
 一瞬妄想に走りかけたが、ぽんとシンジの頭に手を載せて、執務室のロックを外した。
「わかったわよん。いいでしょ、どーんと相談に乗ってあげる!」
「あの・・・ありがとう・・・ございます・・・・」
 執務室の中は、自宅から想像したほどには散らばっていなかった。ネルフ職員が掃除を
しているのか?強いて言えば、処理済みの書類と未処理の書類が山積していることだけだろう。
 シンジの主婦じみた感想をよそに、ミサトは、そなえつけの冷蔵庫をあけて、中を探っていた。
姿勢と位置の関係で、ミサトのぎりぎりまで短くしてあるタイトミニにつつまれた、たっぷりした
ボリュームのお尻が、シンジのほうに突きだされている。はっきりと下着の線の浮き出たまろやかな
曲線から、シンジは必死に視線をずらす。
「ほいっ。」
 トンとシンジの前に、何本かのよく冷えたUCC缶コーヒーが置かれる。
「ごめんね、おつまみないのよ・・・ん?」
 ちょっと壁に視線を向けていたシンジを見て、一人納得したミサトが、すっ、とシンジの
耳元にささやく。


14
「シンちゃんの、すーけーべー。」
「そっ、そんな!!」
 あわてるシンジの背中を、からからと笑いながら叩くミサト。
「冗談冗談。ごめん、気にしないで・・・・よっと。」
 シンジと並んで、椅子に腰掛けながら、缶ビールのプルを引くミサト。ガシュッと言う音
とともにあふれ出す金色の泡を、嬉しげに口で迎えに行く。
(・・・軍施設の中で、いいのかな・・・・?)
 シンジの素朴な疑問をよそに、ニカッ、と笑ったミサトは、遠慮なくシンジに話しかける。
「そんで?シンちゃん、相談ってなに?」
「あの、その・・・・今日の、事件なんですけど・・・・その、途中に・・・・」
 シンジが、自分の考えをまとめながら、つっかえつっかえ話し出す。
 のほほんとした顔で、ビール片手に聞いていたミサトだが、話が進むにつれ、酔いとは別の
要員から、その形のいい耳や頬が、ぽぉっと赤らんでくる。
「僕・・・こんな、こんなことになるなんて、全然思ってなくて・・・」
 30分を過ぎた頃、ミサトは、ビールを補給するついでに、机の上のコンパネのボタンの一つを
素早く押した。カキッ、と言う小さな音が、部屋の全ての扉がロックされたことを伝える。
話に夢中になっていたシンジは、気づかなかったが。
 ビールが半ダース空になり、時計の短針が一回りした頃、ようやく、シンジは、全てを話し
終えて、大きく一つ、ため息をついた。新しい缶コーヒーをあけると、一息に喉に流し込む。
 と、そのとき、顔が、柔らかい、ふわっとしたものに包まれた。
「そう・・・大変だったわね、シンちゃん・・・・」
 ああ、この感触は・・・少し前に一度、そして、別の人には昨日・・・記憶がある。
あれは、ミサト家を飛び出して、戻ってきた後。ミサトは、笑って、抱きしめてくれた。
そして、昨日。あの、背の高い、ガードの女の人にも、抱きしめてもらった。そして、その後に・・
 考えが、危険な方向に行ってしまいそうになって、あわてて我に返るシンジ。

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「ミサトさん・・・・」
 年の離れた姉のような、優しい抱擁に、安心して目を閉じるシンジ。
 だが・・・
「辛かったでしょ、シンちゃん・・・」
 こちらを心配してくれているのは嬉しい。でも、なんで、身体をすりよせてくるんだろう?
 なんで、壁の近くまで、位置が移動しているんだろう?
「ミサト・・・さん?」
 ほんの少し、不安をにじませた呼びかけに、美貌の作戦部長は、優しくほほえんでみせた。
 だが、その、どこか焦点が遠くに向いている表情は、昨日、遭遇しなかったか?
 身体を控えめに撫でる手は、覚えがないか?
「シンちゃん・・・・」
 熱っぽい呼びかけとともに、ミサトは、立てた人差し指で、シンジの唇を塞いだ。
そして、シンジの身体を、もういちど抱きしめ直す。そのだきしめかたは、すでに、
「家族」としてのものではなかった。
「ミサトさん・・・・ミサトさん・・・んんっ!?」
 不安げな呼びかけに、悲鳴が重なる。ミサトの手が、実は、話の途中から膨らみ続けていた、
シンジのズボンのこわばりを、包み込んだのである。
「大丈夫・・・大丈夫・・・・
 そんな、ガツガツした、無理矢理なやり方は、嫌だったでしょ?
 ゆっくり、ゆっくり、試してみましょう・・・・?」
 想像もしなかった状況に、抵抗らしい抵抗も全くできないまま、シンジは、冷たい感触の
床に、そっと押し倒されていた。


16
 まだ、酔っぱらってしまったミサトの、途方もない冗談じゃないか、とあげた視線は、
窮屈そうに服のジッパーを引き下ろす、ミサトの姿を捕らえた。
 おろしたとたん、はじけるように、扇情的な黒い総レースのブラに包まれた、巨大な
バストがあらわになる。
 凍り付いた視線の中で、ミサトの顔が、ゆっくりと近づいてきた。
「ほら・・・目を、閉じて・・・・・」
 無意識に従ってしまった直後、自分の唇が、暖かく濡れた甘いものにふさがれた。
 その瞬間、サードチルドレン・碇シンジ少年は、一切の思考を放棄した。

 そして・・・次に気がついたときは、ミサトの自宅の、自分の部屋のベッドだった。
がばっと身を起こすと、制服のままである。
 自分に何が起こったのか、必死に理解しようとするシンジの耳に、インターホンの呼び出し
音が届いてきた。
 反射的に部屋の外にでて、受話器を取る。
「はい、葛城です。」
 受話器からは、聞き覚えのある、静かな女性の声が流れ出した。
「サードチルドレン・碇シンジ君ですね。昨日は失礼いたしました。
 保安二課所属、パイロット保護観察任務、最上タカネです。赤城リツコ博士からの、
伝言を伝えに参りました・・・・」

 シンジは、何か、冷たいものを感じて、背筋を震わせた。


 後日談・了



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